2020年9月1日更新
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■「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」!?
三戸正和氏の著作「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門 (講談社+α新書)」の累計発行部数が13万部を超えるベストセラーとなっています。週刊漫画雑誌「モーニング」での連載も好評を博しているようです。ごく一部の企業オーナーの皆さまを除いて馴染みの薄いテーマであった「事業承継」書籍としては空前のヒットと言えるでしょう。
老後の生活を企業年金や公的社会保障制度が保障してくれる時代は過去のものとなり、また、10年前には躊躇されていた人員整理・リストラも企業経営の一環として広く実施されるようになりました。「そうか、会社人生以外に後継者になる選択肢もあるのか!」と先行きに不透明感を感じる「サラリーマン」の心を広く捉えたものと思います。
また、政策的にも、後継者不在企業を経営人材(個人)が引き継ぐ取り組みは所謂「ベンチャー型事業承継」として大変注目を集めています。中小企業庁が平成29年7月に策定した「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5ヶ年計画)」においても促進に向けた取り組みが記載されているところです。
個人M&A/スモールM&Aとも呼ばれて大変注目されています。
■本当に300万円で会社を買えるの!?
このように近年、大変注目されている「ベンチャー型事業承継」ですが、実際のところはどうなのでしょうか。日々、多くの事業承継案件のご支援をさせて頂いている弊社の経験をもとにお話しさせて頂きたいと思います。
まず始めに、そもそも後継者として「300万円で買える会社」はあるのでしょうか? 実は数としては少なくありませんが、下記のような会社であることがほとんどです。
1.経営が苦しい会社(低採算・過剰債務)
2.専門性の高い会社(一人親方/職人企業)
一言でいえば「現オーナーが大変苦労している」会社です。オーナーの座を手に入れれば、誰もがたちまちサラリーマンの年収に匹敵するような不労所得が手に入るかと言えば、現実はそう甘くはありません。不労所得なら投げ売りする必要はありませんし、収益力の高い会社はすぐさま高値で買い手となる企業がついてしまいます。
■「1.経営が苦しい会社(低採算・過剰債務)」の引継ぎ
現オーナーが必死に取り組んでおられるものの、経営が苦しい会社も多く存在します。後継者の方が覚悟をもって保証人を引き継ぐ前提であれば、300万円で買えることもあるでしょう。特に、銀行からの借入金を返済できる目途が立たない(≒倒産してしまう恐れのある)会社は譲り受けてくれることに大変感謝をされるかもしれません。
しかし、こうしたケースでは、再生局面を支えるだけの資本力と事業シナジーが見込める譲受候補企業をご紹介するのが基本です。稀に会社経営や事業再生に長けたプロ経営者等もご紹介していますが、もし引き継いだ後に失敗すれば、投資した300万円を失うどころか、会社は破産、ご本人も自己破産となり得るため慎重に考えたいところです。
■「2.専門性の高い会社(一人親方/職人企業)」の引継ぎ
専門性が高い故に、承継先がなかなか見つからない会社もあります。医師・獣医師等のクリニック、弁護士・会計士・税理士・社会保険労務士等の士業事務所、は地理的な条件等によっては承継先探しに苦労することがあります。また、小売業、サービス業、外食業、製造業、建設業或いは伝統産業において一人親方又は家族経営の形でオーナー自らが幅広く業務を担っている会社なども、やはり未経験者が会社を引き継ぐことは簡単ではないことが多く、承継先探しに苦労する傾向があります。
こうしたケースにおいて、候補企業にピッタリと当てはまる経験/能力等をお持ちの場合には「300万円で会社を買う」ことがWIN-WINの良い引継ぎとなるかもしれませんが、ピンポイントの点と点の繋がりは予測できないものです。なお、丁稚奉公で修行する強い覚悟があれば、業種によっては現時点の経験/能力は問わないこともあります。
■「狭き門」に対峙する前に(必要な準備)
近年、各都道府県に事業引継ぎ支援センターが設置され、公的機関としての専門性と公平中立な観点からの事業引継ぎ支援がなされているほか、民間の支援インフラも急速に整備されています。かつてのような「情報の非対称性」も少しずつですが確実に解消されつつあります。掘り出し物への期待が良い結果に結びつくとは限りません。「300万円で会社を買う」ことは可能ですが、更に、承継後の生活を支えるだけの「安定した収入を期待する」のであればそれは非常に「狭き門」であることをご理解頂けると思います。
それでは、この「狭き門」に招き入れられるにはどうすれば良いのでしょうか?1つの鍵は、苦しい会社の経営を支えるに足る「本物の経験/能力」です。後継者不在企業を紹介してくれる、事業承継の支援専門家はこれを真剣に見極めています。
「300万円で会社を買う」ことを希望される皆様には是非、ご自身が培ってこられた「本物の経験/能力」を以て苦しい会社の経営をどのように支えることができるのか、自らに重ねて問い掛けて頂くことをお薦めします。その前に軽い気持ちで門を叩いても、相手がまともな専門家であれば、丁重にお引き取り願われることとなってしまいます。
そしてもし、中小企業の経営に真に活かせる「本物の経験/能力」をお持ちであるとの確信を持たれた場合には、その経験/能力を可能な限り、正確にお伝えできるよう努めてみてください。非常に「狭き門」ではありますが、そうすることで初めて、あなたに相応しい「ベンチャー型事業承継」の話が舞い込んでくる可能性が拓けてくることと思います。
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